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都市の縁側空間2

2017年5月24日[ケヤキの見える窓辺]

都市住宅の中に昔ながらの「縁側」を見かけることは今ではほとんどなくなってしまった。しかし、「縁側」のイメージは私達の記憶にいまだ強く残っている。現在では、この内と外の縁を結ぶ部分、つまり縁側が都市環境の変化に伴い、大きく変わってきているが、一方で新しい多くの提案を見つけることができる。使われ方を限定したり、プライバシーの関係で、自然と人との接し方をコントロールするなど、コミュニケーションする相手を選んでいるものが多いのも、血縁、地縁の関係が都市では薄れてきているからと考えられる。都市の中という、困難な条件での縁側を成立させる、キーワードとしてしつらえを考えてみた。

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以前同じタイトルでブログを書いたが、そのときは都市のマンションについてで私の手がけた案件を元に具体的実例を説明した。今回は都心の密集地で手掛けた住宅の実例をもとに書きます。

 

とくに都心の密集地での家づくりは一般の住宅のように暑さ、寒さ対策など外部環境の変化に対して防御するだけでなく外部から否応なしに侵入してくる音や通行人などの視線からも、また隣人の干渉を互いに避ける必要がある。そんな中で外部とワンクッションおける離隔スペースを確保し、通風、採光を自ら確保する手段として縁側の考え方が重要になる。昔のように隣人が気軽に来訪しコミュニケーションを深める役割は確かに薄まったが自然との接し方やプライバシーの確保等に形を変えて継承されていくと思う。

 

もちろん従来の縁側そのままの形では対処できないのは当然だが縁側のような緩衝空間をそれぞれの居室にあてがい、外部とはその緩衝空間を通してワンクッションおいて接触させる手法は大切である。この緩衝空間のしつらえ方が都市での家づくりのポイントとなると思う。都心とはいえこの緩衝空間でホット一息ついて自然と接することが可能になる。

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住宅では必ず設置されることが当たり前になっているバルコニーが都心部では使い勝手が悪くほとんど物干し場や外調機置き場や不用品の置き場になって都市景観を壊していることを目にする。私の手がけた物件ではバルコニーを止め、その代わりインナーテラスを各居室間にかまして外部から閉じた空間としても使え、また通風採光を他からの目線を気に掛けることなく楽しめる半外部空間としても使うことを意図した。そのため仕上げ材も床は外部用のウッドデッキ、壁も外部にも使用できる羽目板を使った。そこでは開口部や開閉可能なトップライトを設けた。インナーテラスへの各居室の出入り口は引違戸や引き込み戸にした。もちろん出入り口はインナーテラスの外壁開口部とは直交する位置にあるため外部の目線を気にせず開けることができる。外壁側の開口部を閉じて上部のトップライトから採光、トップライトを開放して通風を得ることができるようにした。トップライトには光を調整するために遮光ブラインドを設置した。

 

引違戸や引き戸の開け方は開け閉めの具合を自由に調整できるので外部状況(目線や西日や外部目線など)に応じて使い分けできる。もちろんインナーテラスには一般のバルコニーのように外調機などを置くことはない。洗濯物を干しても直接外部からは見えにくい。2階にあるインナーテラスは一部床を強化ガラス製にして床デッキと同じ材料で開け閉めできるようにして階下の中庭の奥部分にも光が落ちるように工夫した。

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また住宅地でもちょっと都心から離れた地域では出窓が大切な緩衝空間となる。出窓といえば一般にサッシメーカーの既製品を想像されるが私の設計する出窓は出窓の窓台が多目的な役割を果たすよう工夫している。飾り台の役割、寝そべったりできる長椅子の役割も果たすよう高さを椅子の座面に合わしている。そこでは野鳥のさえずりを聴きながら、窓からは朝のひんやりした新鮮な空気を採り入れ、街路樹や公園の緑や自分の家の庭などを眺めコーヒーを飲んだり、読書したり、新聞を読んだりできるしつらえとしている。

 

もっともっと新たな縁側空間を創造してゆきたいと思う。私たちには自然と家との緩衝空間である縁側が脈々と受け継がれてきているし、これからも次世代に継承してゆきたいと考えます。

※写真は高知の中村トンボ園に咲く花

 

 

 

 

 

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