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家のつくりようは春愁を旨とすべし

2017年6月3日[ケヤキの見える窓辺]

「家のつくりようは夏を旨とすべし」というのは吉田兼好の徒然草にある有名なフレーズである。吉田兼好の時代と違い文明が格段に発達した現在は私たちは夏の暑さをやり過ごせるたくさんの知恵、武器を手にしている。当時とはエネルギーの使い方は比較にならないがそれでも省エネ技術を発展させエネルギーにも配慮しながらより快適に過ごせるようになってきている。

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わが国は四季があり温暖で夏と冬を除いて快適に過ごせる秋と春がある。最近の家づくりを眺めてみるとこの長い快適な中間期である春秋を快適に過ごすことを忘れ、断熱、気密、省エネなど気候の厳しい西欧の考え方が優先されすぎているように思う。

 

私たちの国土はとくに春と秋は先ほど述べた断熱・気密・省エネを忘れてもっと自然と接して本来の私たちが受け継いできた生活の方法を楽しむ季節である。春の草花を楽しみ薫風を受け、新緑の木漏れ日を楽しみ、みずみずしい田の風景、野鳥のさえずりなど、秋には黄金色に染まった田やすばらしい赤や黄に染まった紅葉、冬に備えた野鳥のさえずりや晩秋の光景など。春秋はとくに日照の時間変化も生活に大いに影響するし、日の出や日没の豊かさは至福の喜びである。この季節は窓を開けて朝の新鮮なひんやりした空気も楽しめるし、月も美しく映る。

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断熱・気密・省エネの数字に一喜一憂することなく、この秋と春をより快適に過ごすことを念頭にした家づくりが大切だと思う。高機能な文明の利器を採用すれば数字は確かに上がるがそこから抜け出すものも多いことを忘れないでいよう。私たちが「生きる」上で大切なものも抜け落ちる可能性がある。いかに高度な文明の利器を開発しても私たちは自然のような万能なものは創造できない。数字でしか優劣が判別できないものはたかが知れていると思う。それなのに私たちはその数字に踊らされて大切なことを忘れてしまう。

 

窓からの眺めもグリーンやブルーがかった省エネガラスから眺めることと私たちのこの目で眺める風景、防音・気密機能が高められた省エネサッシで消される野鳥のさえずり、風による木の葉のかすれ音、子どもたちの声など、ちょっと立ち止まって考えることも必要なのではないだろうか?

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家づくりには私たちが自然とどう折り合いをつけるかということが重要である。その根本はこんな豊かな自然風土に富める国に自ら生かしてもらっているという自然への感謝の心が常にある。

※写真は西表島の風景–マリュウドウの滝、サシシマスオウンキなど

 

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