pagetop

BLOG

blog

夏の日の一枚のシーツ

2022年9月7日[ケヤキの見える窓辺]

小学生のころの話です。私の勉強するスペースは縁側の南西角にあり父の手作りの机が置ける広さであった。南側は壁で西側に大きな開口があるそのスペースは夏の午後は西日の直撃を受けた。

 

それでも宿題をこなすために机にかじりついていたとき、母が洗濯してきた真っ白いシーツを竿竹にわたして窓際に干した。大阪の夏は午後には西風が吹くので当時は脱水機もなく水をたっぷり含んだシーツは日射や風に吹かれて蒸発することで気化熱を奪われ、西風は快適な涼風にかわった。シーツにより日射も遮ることができ、風速も弱められ快適な風速になった。まさに夏の暑さには一石二鳥の工夫であった。

 

このように不便だが、自然と一体化し、そのポテンシャルを活用しながら、自然のリズムを実感できる居住環境がある。

 

わが国では「夏を旨とすべし」という有名な言葉がある。温暖な地方では開放的な建築手法が発達し、内部と外部を遮断するよりも一体化する方法であり、外気をどのように室内に導入するかが大きな問題であった。我が国の住宅の長い伝統は機械に頼らないという意味でパッシブ(受動的)クーリングの技法の蓄積の歴史だといえる。

 

一方寒冷なヨーロッパでは密閉型の建築手法が発達し成熟した。寒さの侵入を防ぎ、室内から寒さを除くことがその基本となった。外部と熱的に遮断することが重要であり、壁は厚く、ドアや窓の面積をできるだけ小さくする必要があった。さまざまな暖房手法が、建物と一体化した形で長い時間かけて考えられてきた。暖房に伴う室内の臭気や換気も早いうちから科学の対象とされた。

 

自然環境に適応しながら、そのポテンシャルを利用しようとするデザイン手法がある。パッシブデザインであるがその成立条件としてはその地域の自然環境条件が問題になり、気候条件によっては採用するデザインも当然変わる。

 

日照条件が悪く、騒音や空気汚染に悩まされ、プライバシーや防犯のため窓も開けられないというのではパッシブデザインも成立しにくい。このような意味で大都市の環境はパッシブデザインを許容しにくく、いきおい(太陽エネルギーを熱源としてエネルギー交換しながらも機械的な)暖冷房へ依存しがちになる。そしてエネルギーに依存すればするほど排ガスや排熱も増え、それによって環境負荷も増え、ますます人工環境技術に頼らざるを得ない悪循環に陥りがちである。いわばジリ貧のシステムであり、持続可能なシステムからは程遠い。

 

大都会でも都心に比べて住宅街は比較的良好な環境のところも多く、その自然のポテンシャルを利用して環境にかかる負荷の少ないデザインで家づくりをする方法がとられず、画一的に人工環境技術に頼った家づくりが横行していることに危機感を抱くのは私だけだろうか。

 

有用な暖冷房技術はこれからも家づくりに採り入れていくべきだと思うが、暖冷房負荷を小さくする建物の工夫、機械設備システムの効率の向上、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーの利用などは、環境負荷を減らすための有力な手段であることは間違いないと思う。暖冷房の本当に必要なところでは上手に使えばよいのであるが、効率のよいシステムだからといって無理やり使うことはないと思う。

 

暖冷房負荷は小さいものの、いつも暖冷房設備に頼らなければならない住宅であったために結局、トータルのエネルギー消費量が増えてしまったという例も少なくない。

 

大きな意味で持続可能なデザインを忘れてはならないと思う。

  • ケヤキの見える窓辺
  • お問い合わせ
  • 建築家×弁護士