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職人さんと一緒に家づくりを!

2016年7月30日[ケヤキの見える窓辺]

今回こんなタイトルにしたのもわけがあります。建物の設計を生業にして40年近く、さまざまな仕事を通じて職人さんたちと接してきました。とくに住宅においては職人さんの技量の低下が目に付くようになってきました。まだ今ならきちんとした技量をお持ちになっている職人さんも少なくなってきていますがいらっしゃいます。しかしこの傾向が続くといずれ技量の伝承もなくなり住宅現場の質の低下は避けられなくなり、本当の家づくりの精神が途絶えてしまいます。

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こういう私たち設計側の立場のものも責任がないとはいえません。また消費者側の方にもちょっと立ち止まって再考していただく必要があると思います。世の中コンビニに象徴されるように「きれいで便利でしかも価格が安い」というのが今の常識となっています。それは私も否定はしませんし自分の仕事の大きな部分を占めていることを事実です。

 

しかしハウスメーカーと大きく異なる点が一つあります。職人さんの技量の低下や個々の職人さんの技量の差を前提に家づくりの工法を開発してきたのが大手のハウスメーカーです。つまり初めから職人さんの技量の否定から出発しています。素人のような職人さんでも家づくりが可能になるように簡易な工法を目指しています。ここで勝負になるのは早く仕事をこなすことです。そして次の仕事に早く移ることが第一にされています。そのため意外と住宅のトラブルが多いのです。職人さんの技量の熟成にはもちろん技の習得に必要な時間だけでなく精神修養の時間も求められていたのです。また多くのモデルハウスの展示場、営業担当の人材を抱えていて本当の施工する職人さんに回るお金も少なくなっていくのは当然ですね。職人さんも数をこなすことにのみ専心してしまい、仕事へのこだわりは捨てざるを得ない流れができてしまっています。

 

では私のように設計する立場の方はどうかというと私が設計させてもらっている建物は職人さんの技量とモノづくりへのこだわりなしには成立しないと思います。確かに世の流れ的には「一見きれいで安くて早い」が最優先されています。ハウスメーカーや建売業者さんの住宅よりは工期が倍になっています。時間短縮と職人の技量を求めないことが第一優先された組み立てと切り張りだけの家づくりと私たちの家づくりとは根本的に異なります。

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建物の外壁仕上げ一つにしても異なります。以前行った住宅では施主の方から「吹付リシン」でというご要望がありました。皆さんご存知のように比較的安価な仕上げですが風合いを感じる仕上げです。リシン仕上げの下地はモルタル仕上げで左官職人さんの手になります。一定の乾燥期間をおいて最初の下地の上にもう一回モルタル塗を重ねます。モルタル塗はひび割れたものも多くそういうイメージが定着していますがきちんとした下地作りと職人さんの技量でひび割れのない仕上げにできるのです。吹付リシンという安価な仕上げではありますが職人さんのこてさばきの跡を感じることができ手作り感がでています。これはキレイだけで味わいのない張りものの仕上げでは出せない味なのです。そういうことを理解された施主さんとの出会いで実現しました。

 

現在工事中に家も大工さんの手仕事なくては実現できませんでした。最近ではプレカットがほとんどで大工さんが自ら木を刻むという工程はなくなりましたがこの家では一部大工さんの手刻みに頼らないとできない部位がありました。これは設計した部位がどうしてもプレカットではできないものを含んでいたからです。また外壁も全面左官仕上げになっています。私の設計する建物はやはり職人さんの技量が必要ですしその技量を信頼して初めて成り立つものだと思います。

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担当された棟梁が「おそらく手刻みでする家はこれが最後になる」と若い大工さんに寂しそうに言われた一言が胸に突き刺さりました。いやいやこれが最後には絶対しませんと心に誓いましたが。

※写真は神鍋高原を旅行したときのもの

 

 

 

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