熊本地震から学ぶこと
2016年5月21日[ケヤキの見える窓辺]
地震の被害にあわれた方々に深く哀悼の意を表します。
私は建物の設計を生業としてはや40年近くになります。とくに家づくりのお手伝いをさせていただく機会も多いので今回の地震について私なりに感じたことを書きます。
私たちは地震の被害に遭うたびに建物の安全について新たな問題点が出て再検討して改良を加えてきました。ご存じとは思いますが現在、新耐震の基準+阪神淡路大震災の経験を踏まえて改良された耐震基準に基づいて家づくりをされています。しかし今回の地震ではこの基準で建てられているにもかかわらず一部の住宅で大きな被害を受けました。施工がきちんとなされたかどうかは後の調査に委ねますが、今回はわれわれが今まで経験したことがないような地震が発生しました。それは短期間のうちに震度7近くのものが複数きたことでした。1回目ではなんとか持ちこたえたとしても2回目の本震で破壊された建物—とくに住宅が多数ありました。
このことから私たち技術者も考えを改めねばなりません。今までは震度7クラスの地震は1度きりだけで住人の生命の安全を確保することを目標に耐震基準がつくられていました。
これからは家づくりの基準として震度7クラスの地震が複数回きても安全な家を提供するという目標がでてきました。それと気になるのは倒壊は免れても破損が大きく再び住まわれるには大きな投資が必要になるということです。
そういう中で私たちはどのような選択をしていけばよいのでしょうか?後者の家の被害を小さくするには地震の揺れを小さくすれば被害が小さくなるのは誰でも理解できるでしょう。しかしビルなどの大きな建物は大がかりな免震装置を設置できる予算や機器はあるので設置している建物は多くなってきていますが一般の住宅ではどうでしょうか?
住宅用に地震の減衰装置は一部のハウスメーカーなどが開発して販売されていますが1台何十万もして設置も1台では済まず、果たしてコスパの上でも問題があります。よければ市場に出回っているはずでなかなか普及にいたらないのは様々な問題があるからです。また住宅の土台部分を鉄骨で造った本格的な免震装置がでていますが建築工事費が1.5倍に膨れ上がるという試算もあり一般的ではないです。
現在、私も住宅の工事物件を抱えており、その対処に悩んでいました。やっと基礎工事が終わった段階ですが施主の理解も得て新たな免震装置を採用しました。これからは耐震だけではやはり建物の被害はどうしても大きくなるので地震の力を弱めて家の資産を守っていくということが根本の課題になっていくと思います。なにせ数十年という長期間のローンを組まれて大半の人は家をお建てになっているからです。地震に遭われてもその後の補修費用はばかになりません。なるだけその費用も軽減するためにも免震装置は必要です。
幸いこの装置は熊本地震の洗礼を受けてその性能が確認されています。しかも今までのものと異なりかなりリーゾナブルな価格になっています。私もこれからは設計する家にはこれを標準設置したいと思います。
※写真は福島の茅葺の家の集落のある大山宿の風景