自然と一体化する家づくり
2014年4月19日[ケヤキの見える窓辺]
よく知られた話(日経新聞の掲載記事)で恐縮ですが元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの話から始めます。
西水さんが自らの進路に迷っていたとき「山の上のスキー場にロープウエーでのぼり、眼下に太平洋を見ていたら『何を悩んでいるのだろう。私のやりたいことは経済学だ』という考えが、すっと見えてきました」
答えが風景からもたらされたと述べられています。これは見方によっては神秘主義の2,3歩手前だと言われかねないことだが、人間とはそういうものなのだ。論理的な積み上げだけではどうにも解決が得られないとき、人は風景から答えを与えられる。
日常べったりの思考ではこのような“啓示”は神がかっていると言われかねないが、本当に重要な問題は、風景つまり自然の力によって切り開かれる。
現代の家づくりにおいて最も見落とされがちな観点が自然と一体化することではないだろうか。われわれが家に居て、日常から解放されてリラックスできるのは家と自然が区分けされない空間(もちろん家と接続している)に身をおくことなのだ。
私が家づくりにおいて主張する「窓辺」というのもそのような空間づくりなのだ。外部環境と家とを高断熱の壁で区切り、窓をそこ そこ設ければよいというものとは全く異なる。
私たちは過酷な自然を切り開き征服してきた他の文明と対照的に、自然を壊さず、自然に内在する「神」と交信することで今の生活を保障してもらおうというメンタリティを培ってきた。
ときには家の物理的狭さを揶揄して「ウサギ小屋」と呼ばれたりしたが、私たちは彼らにない生き方をしてきた。家に自然と一体化できる空間を接続させて限定された空間を広げる技術を先祖から受け継いできた。この価値はわれわれが十分気づいていないかもしれないが世界に別の生き方を提示できるのではないだろうか。
私は何も昔の家をそのまま現代によみがえらそうと提案しているのではない。先祖から受け継いできた精神を生かして、われわれの置かれた環境の中でわれわれなりの言葉で再構築した家づくりをすればよいと考えている。
※写真は家内作のこいのぼりの置物など