一番電車
2015年8月31日[ケヤキの見える窓辺]
仕事の都合で一番電車に乗ることが多くなっている。一番電車とは字のごとく1日で最初に運行される電車のことである。まだ暗いうちに家を出て駅に向かう途中徐々に夜が明けほんのり明るくなってくる。駅につくとまだ轟々と明かりついている。
私自身、夕暮れ時と夜明け時は子供の時からなぜか好きで時の移ろいを身を以て感じられるからかも知れない。
建築の設計を生業として40年近くになってきた。独立して事務所を構えて二十年余り経過した。現在は高齢者用の住宅と三十そこそこの子育て世帯の住宅を設計している。それに加えて小規模マンションの大規模改修の監理をしている。自らも感じているのだが設計技術が充実してきているし、気力の衰えもまだ感じられないし、体力の続く限りあと十年ぐらいは仕事をするつもりだ。
高齢者用の住宅では初めて京間モデュールを採用した。時代の流れとはいえ、慣れ親しんだモデュールを簡単に手放すことに難色を示されたためである。一回り余裕のある生活をしたいと言われ、私も賛同させていただいた。とはいえ、材料の規格寸法が現代モデュールに合わされていて、材料の使いまわしなどには無駄がでないよう工夫がいる。
今回の住宅設計の中で窓シャッターを採用した。建築家設計の住宅ではまったく見られないのだが。高齢者の立場に立って防犯対策、雨戸の開け閉めなどの手間を考えると採用を拒否することはできなかった。
窓シャッターも我が国の気候風土に合わせてこれから進化していくのだと思う。昔は窓(間戸)は開けたままの状態が通常で雨のときだけ閉めるという使い方であったが。今の社会環境ではやはり防犯は無視することができない。シャッターだけでは安心できないというご要望があり、セキュリティガラスも併用している。シャッターの設けられない小窓は防犯格子を設けている。通常のアルミ格子では簡単に侵入を許してしまうのでそれは簡単には採用できなかった。
外観のデザインも最初から決まったものはなく、一番充実させる必要のある窓廻りや内部プラン、内部空間の構成、雨水の処理などから自然に決まっていくというのが私のやり方である。外部仕上は外装タイル張りとした。住宅でタイルを全面に張るのは今回で二度目である。かなり工事金額に影響するが、それなりのものを選ばないと品格の無い外観となる。
子育て世帯の住宅では、これから育っていく子供たちのこと、家族の在り方など内部空間に表現しょうと思った。父母をイメージした2本の大黒柱で内部空間を構成するように考えた。大黒柱のイメージは通常四角なのだが今回は丸柱を採用した。子ども部屋は睡眠、勉強が最低限できる程度(ベッドと机、収納)の広さとし、その代り子供の読書、お遊びスペースを親も一緒に使えるように親寝室の前に設けた。小さいうちは食卓を活用することになる。
サラリーマンだと引退して別の生き方をされることが多い中、私は好きな仕事を続けさせていただいているのは、仕事をご依頼していただけるからであって、1日、1日と充実した日々を送らせていただいていることにこころから感謝している。
朝早いのに足早に駅に向かう人もいる。私が利用している路線では一番電車と二番電車はすべて各駅停車である。都心に向かう途中で乗客を乗せていくのだがターミナル駅に着くまで降りる人はほとんどいない。ターミナル駅に着くころには車内はかなり混んできている。
建築の設計を生業としている私にとっては通常は朝はゆっくりで仕事に応じて夜残業することが多かったが、歳とともに夜の仕事が少なくなり、朝に仕事をするようになってきた。
※写真は高知中村のトンボ園