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ある棟梁のつぶやき

2019年1月26日[ケヤキの見える窓辺]

3年前、ある住宅の建設現場において棟梁は「こんな仕事はもう最後かも知れない。」と若い大工たちに言っているのが私の耳に入った。それは寂しそうに聞こえた。

 

現在、住宅の現場でも大きな波が押し寄せて来ている。それはハウスメーカーを中心に起こしている。ハウスメーカーの戦略は、大量の効率生産をした製品を現場に持ち込んで短時間に組み立てる工法を採用して、なるだけ熟練職人の手によららずに施工できるように工夫している。そこには腕はそこそこでも賃金の安く抑えられる職人を集める。安く、早く工事を進めることにより最大の利益を確保する企業の論理が優先される。職人も早く仕事を片付けて次の現場に取り掛かるようにとプレッシャーの中で仕事を行っているのだ。

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私は家づくりのお手伝いを生業としています。一つ一つが手作りです。しかしその手法は構造なら、日本全国でハウスメーカー以外の設計事務所や工務店が採用している工法を使っている。それは日本全国の大学、政府、設計事務所、建設会社などの関係者が研究し、議論して、毎年改良を加えてきたものです。一方、ハウスメーカーの構造は独自の工法を考えて国から認定を受けたものですが、その情報は、公開されていません。そのためリフォームなど改修や増築を行うときにも、そのハウスメーカーしか関与できないようになっています。

 

私が採用している工法は、社会一般に公開されているので、別の建築士や工務店が改修したり、増築をしたりすることができます。私も歳をとってきていますが、たとえ引退しても、また、建設当時の工務店が亡くなっても、まったく別の手で設計や施工ができるのです。新たな命を注入して新しい家に生まれ変わることも可能な持続可能なシステムなのです。

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またハウスメーカーは、顧客を囲い込むために独自の外壁材を開発してその優位性を宣伝しています。消費者からするとこんな材料があるのだがと希望しても採用はしてくれません。それは企業にとっては手間のかかり、自らの実績のないものを使うことにより価格も高くなり、またトラブルになったときのことを考えてそのようになるのです。

 

はじめの棟梁のつぶやきに話を戻します。私たち設計を生業としているものにとっての第一は自らの利益を最大にすることではありません。まともな仕事をしている工務店も同じだと思います。手作りの家を完成させるためには職人さんの手が必要です。職人魂を忘れず、日々の修練を行って腕を磨いてきた職人さんがいるのです。設計者の技と職人の技が合わさって家を完成させていく過程は重要です。家づくりに携わっている関係者が心を併せて一つのものを創り上げていくことが、顧客のためになる一番のことだと信じてきました。そのためには大工の技を磨くことができる仕事、棟梁の技を若手に教えることができる仕事、職人の魂を注入できる仕事・・・などが必要です。そのような仕事が少ないことへの棟梁のつぶやきではなかったかと思います。

 

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