気密住宅は住まいの伝統を断絶させる!
2017年8月31日[ケヤキの見える窓辺]
現代は省エネという大義名分により気密住宅が大手を振って作られ続けています。それは住宅の気密性を高めれば熱の出入りが少なくなる為省エネになるということだと思います。
以前のブログにに書きましたが私たちは長い歴史を振り返るとこんな高気密な空間の中で生活したことはかつてなかった。とくに厳しい気候の夏と冬は部屋を閉め切って省エネエアコン稼働させ室内の熱を外部に放り出して室内空間の快適性を高めることに終始する。
夏では暑さが和らぐ深夜や早朝までそのような状態で過ごされることが多いと思う。治安の悪い環境ではおいそれと窓を開放することはできないが、防犯性を高めながら外部の風などを採り入れるなどの工夫は皆無だ。せめてエアコンから扇風機に切り替えるというかつて存在した細やかな試みは少なくなっているようだ。
西欧人からウサギ小屋と揶揄された私たちの小住宅はそれなりの歴史的な工夫が受け継がれて成立していた。それは茶室にも応用された手法である。私たちが居住空間に日常とは乖離した非日常を採り入れたいと思った時は広間のような大きな空間ではなく茶室のように小さな空間にその脱俗の精神性を込めて非日常を表現した。広間には精神性は感じられないからであろう。物理的には狭小な空間も無限の広さを感じさせる外部環境から風の音、虫の声、月、雨音、せせらぎ音などを採り入れることによりその物理的な狭小空間を克服する手立てを受け継いできた。
気密住宅は密閉空間において外部環境とのつながりを断ち熱の出入りを極限に抑えることを目指している。ただ出し入れがあるのは自らの居住空間の不必要な熱だけでそれを外部に排出して成立している。これが都市部ではヒートアイランド現象など個を離れて地域全体で見れば負の現象を引き起こしている。
現代住宅の問題は私たちが受け継いできた外部環境とのつながり方の工夫などお構いなくひたすら省エネという御旗のもとに気密住宅が量産されている。その流れの中では私たちが受け継いできた伝統的な感性や生き方や子育てなどの大切なものが流失していく運命にある。またその対極に自然住宅という名目で素材に自然材料を用いただけの家も存在するが伝統住宅にあった日常の素材を組み立てていかに非日常の空間を創造するかという大切なことを見落とした住宅も多く見かける。
省エネが私たちに豊かさをもたらすのか、単に自然材料で構成したものでけが豊かさをもたらすのかよく考えていただきたいと思う。
建築の設計を生業としてきた私にとって、私たちが受け継いできた世界に誇れる感性や生き方を生かして次の世代につないでいくことを忘れたことはない。
※ 写真は有馬温泉の街並み