pagetop

BLOG

blog

あえて便利を考える

2015年12月12日[ケヤキの見える窓辺]

 昨日は神戸市役所に申請に行ってきました。大阪からだとJRで行くのが早くて便利なのはわかっているので午後5時までに間に合うように環状線から神戸線ルートを想定していました。環状線の車中の放送で神戸線は現在不通のアナウンスが流れたので急遽阪神で行くことに決めました。

 しかし、JRからの振り替え輸送客が流れてきて満員で目の前の直通特急には乗れず次の直通特急を待ちました。考えることはみな一緒で特急電車の方が目的地までは早く着くので乗客が殺到します。そのためまた乗降に手間取り遅れていきます。何とか無事に5時に三宮について事なきを得ましたが、はらはらといらいらで寿命が縮まる思いでした。同乗の皆さんも同じ思いだったと思います。

CIMG0823

 

 こんなとき随分古い話ですが東京の田園都市線のタイヤ改正の話を思い出しました。それは乗客にとって便利なはずの急行列車の運行を“顧客サービス向上”を目的にやめた例でした。東急田園都市線は東京・渋谷と神奈川県東部を結ぶである。二子多摩川駅から渋谷駅までの約10キロは平日、渋谷駅着が午前7時51分から8時56分までの16本をすべて各駅停車にする改正であった。

 

 1分でも早く目的地に着きたい乗客は各駅停車を敬遠し、急行列車に乗りたがる傾向があった。その結果急行列車に乗客が集中し、予定以上に乗降時間に手間どり定刻通りのダイヤ運行に支障をきたしていた。そこですべての電車を各駅停車に切り替えた。

 

 効果はてきめんに表れた。2007年4月に始めたところ、2ヵ月後にはラッシュ時のダイヤの乱れが若干解消され、遅延時間は平均約1分短くなったそうだ。

 

 ということで昨日の緊急対応ですべての電車をある区間だけ各駅停車にしてどんどん本数をさばいていく手はないのかなあと考えました。

 

 運行ダイヤの研究する中央大学の鳥海重喜助教は「日本では所要時間を気にする人が多く、込んでいても『自分だけ乗り込めばいい』と急行を選ぶ人が多い」と指摘。それが遅延の一因になるとは一人ひとりは思いもしない。「全体にとってよい仕組みにするには一部の速さを求めればよいというわけではない」と指摘する。

 CIMG0821

人は有史以来、暮らしの中で不便を克服してきたが快適な暮らしにはつながっていないところもある。逆にあえて不便な方が安心や快適さにつながる場合もある。身近なものでいうと道路に設けた凸凹だ。下り坂や直線でスピードを出しすぎる場所には凹凸を設けて事故などの危険性を減じる試みがなされているのはご存知でしょう。

以前家内と九州旅行をしたことがある。黒川温泉は鄙びた風情が心地よかったが大型バスなど街中に入れず観光客には不便であったが徒歩での温泉めぐりは楽しかった。

 

 あえて不便を採り入れている旅館もある。京都嵐山の高級旅館「星のや 京都」では宿泊客の移動手段は原則として車ではなく船のみとしている。自家用車で来た場合でも、近隣駐車場に車を置き、渡月橋の船着場から約10分船に揺られて到着する。館内に入っても「温泉はこちら」「フロントはこの先」といった案内板は一切ない。スタッフに道を聞いたり花や食材の話をしたりして日常会話の機会をあえて作り出す。「不便なモノから情緒が生まれる」と客室にテレビも置いていない。便利さに慣れた現代人に不便は新鮮に映るのか、開業以来、休前日はほぼ満員の状態という。

 

 さて家づくりにおいても便利さの追求に我を忘れている感がある。もう一歩考えてあえて不便なところもないとというか不便なものの中にある豊かさまで切り捨てることはないと思う。すべてリモコンで操作できる世界にはあるがどうも貧しい感じがするのはわたしだけであろうか?

 

 「コンビニが生活に浸透したように日常では時間、空間とも利便性が増し、消費者もそれを求めている。だが一方、意図して非日常を味わいたい時、その便利さがマイナスになることがある」と知識創造工学ナレッジ・ファクトリー代表で生活評論家の林光氏の指摘は家づくりのお手伝いを生業とする私にとって一瞬たりとも忘れたことはない。

※写真は我が家のクリスマスのプチ飾り

 

 

  • ケヤキの見える窓辺
  • お問い合わせ
  • 建築家×弁護士