高齢者の住宅内事故—–魔の30分!
2014年10月6日[ケヤキの見える窓辺]
高齢者の住宅にかかわる不慮の事故死のデータによると、浴室での溺死が60%と多くを占めている。これは、例えば冬に暖かい居間から寒い浴室に裸で行き、熱い浴槽に入るという行動の中で脳障害と心臓疾患が置き、そのまま浴槽の中で溺死するという、部屋の気温差から起こる事故といえる。
人の身体は気温の高い場合は血圧が低くなり、心拍数は増加します。逆に気温が低いと末梢血管が収縮して循環抵抗が高まり、それに対向して心臓が強く働くため血圧値が高くなるからである。なぜ、気温が低いと抹消血管が収縮するかというと、人間は恒温動物なので一定の温度域を維持しなければなりません。気温が低くなれば体温を奪われないように血流による熱の移動を制御するメカニズムが働くためである。
平常の温度域では身体全体に血液の循環があるが冷ショック(暖かいところから寒いところに移ったときに温感が激しく揺すぶられて起こるショック)を受けると血流範囲が小さくなって、血圧が上昇してしまう。
冬に一番寒くなるところが浴室や便所で、便所は脳卒中発作を起こす場所の4分の1を占めている。朝方暖かい布団から出て、冷え切った廊下を歩き、家の中で一番寒い便所に入り、そこで臀部を露出して排便する30分が最も脳卒中発作を起こしやすい時間帯になっている。これが「魔の30分」と呼ばれるゆえんである。
冷ショックとともに「いきむ」姿勢によって、高血圧や動脈硬化のある人や老人などは血管が急激な血圧上昇に耐え切れなくなって破れたり、狭くなった血管部位に血液がつまったりする。対策として暖房便座にすることが提案されるがその前に便所や浴室まで暖房の範囲にすることが先決である。
次に事故死で多いのはスリップ、つまずき等同一平面上での転倒が高齢者の25%ある。これは、わずかな段差であっても高齢者の身体状況から足が上がらずにつまずいたり、足元に置かれていた物につまずいたりの転倒が多いようです。最も事故が多いと思われがちな階段等は、高齢者自身が注意を促されるためか意外と少ないようです。その他の15%は、玄関の框の部分などのように段差のあるところの事故である。
段差を解消したり、スロープや手すりを設けたりすることももちろん大切なバリアフリー対策であるが、私は高齢者のためには寝室と便所、浴室およびそこへ行くまでの通路を含めての住空間の温度差による冷ショックをなくすことが「究極のバリアフリー」と考えている。
※写真は小樽のお店