pagetop

BLOG

blog

コロナ禍の中で考える採暖と暖房の間で

2020年10月31日[ケヤキの見える窓辺]

コロナの流行でアジアと西欧諸国の比較が人種の違いなどで述べられていることが多いが、家の構造による違いにも注意が必要ではないだろうか。

 

機械空調が主流の電車でも換気のために窓を開けてくださいとのアナウンスが流れる。以前「暖房と採暖の間で」というタイトルでブログを書いた。現代の建売住宅やハウスメーカーの住宅は高気密・高断熱をうたい文句に販売されている。一方わが国の伝統的な住宅はあえていうと低気密・低断熱になろうか。現在のエアコンや機械空調が住宅に導入され、さらに省エネとかがガンガン宣伝された。それは高気密・高断熱と表裏一体で実現できる。CIMG5254

 

最大の省エネ住宅とは窓のない家だといわれています。開口部は省エネの数字を上げるのに最大の弱点になります。経済的な省エネ住宅はみな開口部が小さく気密性のよい窓を設置しています。

 

生きがいは省エネだと豪語される方もいらっしゃると思いますが別の生き方をされる方も数多くいらっしゃると思います。

 

暖房の「房」とはご存じかと思いますが「建物や部屋全体」を表します。つまり暖房とは部屋全体を暖かくすることを意味します。これを効率よく実現するには壁の断熱性や気密性を上げ、窓を小さくすることになります。

 

伝統的なわが国の住宅では春と秋の快適な気候が長いので家の内外一体的にして過ごすことを主にしてきた。西欧に比べて家がウサギの寝床とか言われるが外部を家に取り込むことにより狭さを克服してきたといえる。CIMG5255

 

わが国では「暖房」という言葉はあるが実際その意味を実感している人の数はわずかではないだろうか。

 

いままでの日本家屋では気密性とは無縁であった。

 

わが国はヨーロッパの先進国に比べて緯度的にはかなり南に位置している。大阪は地中海より南のアフリカ大陸にあるモロッコのカサブランカと同緯度にある。また雨量はロンドン、パリ、モスクワは年間600~700ミリに比べ大阪は1300mm余りで日本海側の豪雪地帯では3000ミリを超えるところが何箇所かあり、三重県の尾鷲では4000ミリを越えている。世界でも4000ミリ以上の土地は数えるほどしかない。日本は地中海より南の日差しが照りつけるところへ、アマゾンやパプア乳ギニア並みの雨が降り注ぐ特異な風土にある。冬は身に羽織る衣類をふやしたり、囲炉裏や火鉢で直火を炊いて暖を採ったりで何とかしのげたが、夏の場合はこのような手段はなかった。できたのは自然の力を利用していかに涼しく過ごすかの工夫しかなかった。夏の高温多湿の気候に適合するべく強い日差しをさけるため軒を深くし、風通しのよい開放的な家にせざるを得なかった。

 

現在でも高気密で高断熱な建物でないとこの「暖房」は不可能で、普通の家に住んでいる大多数は暖房とは名ばかりの「採暖」方式で生活している。「採暖」は暖房と異なり、寒さと同居しながら寒さをしのぐため局所的に身の回りにのみ暖を採る方式である。

わが国でも高気密・高断熱が叫ばれ始めたのはカナダがR-2000住宅を世界にさきがけて発表したあたりからで、最近やっと一般住宅にもこの仕様の住宅が建てられ、普及し始めた。

 

一方ヨーロッパでは寒さが厳しく日照も少ない冬に適合すべく高気密の閉じた家に住まなければならなかったので暖房という方式は自然に浸透していった。ヨーロッパでは暖房を卒業して省エネ住宅に突き進んでいる。暖房のエネルギーとして二酸化炭素を排出しない地球にやさしい材料に依存しようと躍起になっている。電気や石油に頼らない太陽と水と大地だけで生産する再生可能な資源である植物を生育させ、収穫し、自然乾燥させ、冬にはそれを燃焼させて暖房のエネルギーとする家もでてきている。CIMG5249

 

さて、わが国も単純にこのまま高気密、高断熱に進んでよいものかと考えます。それは「文化」とも関連している問題で「採暖」の良いところは簡単に切り捨てることはできないからです。「採暖」の良いところは直火を媒介にしてそれを囲んで人同士のコミュニケーションがとりやすいところ、また直火を眺めることのよさにあります。

 

私もかんてき(七輪)を囲んで家族でもちを焼いたり、たわいない話をしたりで幼少期を過ごした体験があります。火を囲むことにより自然に会話が弾むのです。また火を眺めながらあれこれ考えることは(うまく言葉で言い表せませんが)頭脳の成長—人間の成長に大切なことだと私は思います。

 

現在の日本の住宅は「採暖」の良さを無視して、一気に高気密・高断熱化にひたすら突き進んでいく危険性をはらんでいます。確かにそれは「省エネ」住宅の近道かも知れませんが切り捨てする大切なものも多いようです。「採暖」の良さを理解し、これを生かした「省エネ」住宅に進む道を歩むべきだと思います。

  • ケヤキの見える窓辺
  • お問い合わせ
  • 建築家×弁護士