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大量生産が文化をこわす?

2017年10月21日[ケヤキの見える窓辺]

前のブログにも書き記したが江戸の家々の甍の波の美しさが明治維新のさい来日された多くの外国人を感嘆させた。現代ではこのような甍の波が残っているところは少ない。沖縄の竹富島の赤瓦、島根半島の赤瓦能登半島西側に見られる黒瓦など、またお城では会津の鶴ケ城が赤瓦で葺かれている。

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古建築の土壁もその土地固有の土を使用するので土を見ればどこの産だかわかるそうだが瓦もその土地の土と釉薬で造られる。島根半島の赤瓦は島根県内で採れる来待石(きまちいし)を釉薬に使い、瓦は赤色。通常の瓦より高温で焼しめるので水分を通しにくく風雨に強い。島根半島は海からの風雪が激しいのでこの赤瓦で家を守ろうとしてきた。一方能登半島西側、石川県輪島市の門前町黒島地区は黒光りする甍の風景。この能登瓦は厚みがあって先の赤瓦(石州瓦)に負けないほど風雪に強いという。釉薬で滑らかに仕上げられた表面は北陸特有の重たい雪を屋根から落としやすく、黒色は太陽熱を吸収し、雪を溶かしやすい利点もあるという。

 

ところが戦後、瓦も大量生産の時代を迎え地場の瓦生産は廃れていった。地域の瓦を入手しづらくなった集落には次々と異質な瓦が入り込んだ。西洋風の屋根が増えたこともあり、同一色の集落は姿を消していった。それでも土地の瓦への愛着は残り先に挙げた会津の鶴ヶ城は2011年に黒瓦から赤瓦に葺き替えられた。

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世界の国々に比べ狭い国土ではあるが南北にしなやかに伸び、多様な気候と風土により豊かな固有の文化を受け継いできた。旅をしてその文化に触れることができることは日本人として幸せだと思う。その文化を通じて地域に生きられた人々の生活—生きられた時間に思いを馳せることは私たちのアイデンティティを確認するときでもある。文化は自分という(人間)を形作る何かかけがえのないものだと思う。(人間)にふくらみを与えるのは個々人の財布の厚みではなくて、人と人との間を潤滑油のように満たす社会全体の文化の厚みではないかと唱えるひともいるが私も同感である。

 

建築の設計を生業として生きてきた自分にとり、そこに生活される人々の生きられる時間が豊かになるようにお手伝いすることしかできないが、多少とも文化に関わっている仕事であることは自覚してその大切さを忘れたことはない。

※ 写真は沖縄竹富島の民家、会津の鶴ケ城

 

 

 

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