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家が上手に時を重ねるには

2014年8月6日[ケヤキの見える窓辺]

(家と住人との程よい緊張関係)

上手に時を重ねた古い街並みの落ち着き、静寂、包容性、なぜか感じる安心やバランスの良さなど経験された方は多いのではないでしょうか。このように上手に時を重ねるには家とそこに暮らす人との関わりがほど良い緊張関係にあることが重要だと思います。P1030939

 

程よい緊張関係とはどういう関係でしょうか。皆様ご存じのように今年世界文化遺産の姫路城の大規模改修が終わりましたが建物を健全な状態に維持していくためには定期的な手入れが必要です。家も同じです。メンテのいらない建物などないのです。われわれは家の状態に常に気を配る必要があるのです。それはわれわれの生活にも気を配ることでもあります。われわれの生活は防犯など町ぐるみのコミュニティの協力なしには成立たない。コミュニティを形成するためには互いのプライバシーは尊重し合わないとうまくいかない。そうし合うことを通じて街並みを大切にし互いに守っていこうという共通意識が育まれる。

 

こうしたことが街全体の安心やバランスの良さ、落ち着きなどを形作ると思う。

 

(家も歳をとる)

家の新築当初は家の経年劣化は目立たない。新しい家にわれわれの暮らしが馴染むようにすることに専心する。必要ならプチリフォームも実施する。そのうち家と暮らしが一体化するのを実感する。われわれにも寿命があるように家に使われた材料にも寿命がある。その材料の使われている部位や環境などにより傷み方に差があるのは人間と同じだ。

 

われわれの暮らしと一体化した家の劣化は自らの身体の劣化と同じようにに感じられるようなら安心だ。歳をとらない家—–新築状態のまま経年変化の少ない家—-メンテのいらない家 に棲むことは理想だと感じる人が多いことは否定できない事実である。私もT市の家を設計するさいのメインテーマの一つに施主から要望をだされた「メンテの要らない家」であった。私は「劣化しない家はあり得ない。しかし劣化により取り替えなどはなるだけしないように工夫してみよう」と考えた。しかし「家が美しく歳をとるのはすばらしいことだ」とも考えた。街を散策すると、家とアンバランスな新品のような玄関扉を目にすることがよくあるが皆さんはどう感じるでしょうか?

 

設計上は日の当たる箇所の建具の木製の下枠は劣化が早いので御影石の下枠にしたり、外部のタイル張はRC躯体から離して乾式工法を採用したり、雨戸は経年劣化しやすいのでなしにして外部の開口部はビル用サッシで守ったり、浴室に出入り口もしっかりした大型建物に用いる3枚アルミ引き戸にして、あえて住宅用は採用しなかった。P1030938

 

玄関扉は「美しく歳をとること」を目指して木製の造りつけとした。扉脇には採光ようのスリットを設けた。駐車場も私の好きな味のある焼きすぎレンガを採用した。

 

(もっと時がいる)

もう10年余り経過したが陰影の深い外観タイルや木製の玄関扉はそれ相応の歳を重ねてきているがもう少し時による熟成を待ちたい。住む人からの染み出るような味わいのある印象が家から醸し出すようになるにはもう少し時が必要だ。

 

※写真は金井の陶芸の最新作

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